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 テレビドラマ日曜劇場「ドラゴン桜」は、原作のマンガとはまた一味違った脚本が面白く、私も毎回ワクワクしながら見ています。5月2日に放映された第2話で注目したのは、バドミントン部員の岩崎楓(平手友梨奈:写真上)。原作にはないオリジナルキャラクターです。

 楓は、オリンピック出場も夢ではないほどのトップ選手でしたが、けがでオリンピックのステップである大学推薦の機会を失ってしまいます。そこで目標を「東大」に定め直し、桜木建二(阿部 寛)に「私を東大に合格させて」と頼むのです。

 しかも、「東大でスポーツ医学を勉強し、けがを克服して改めてオリンピックを目指す」という、「いいところ取り」を宣言します。

 「けがで挫折して、そこから転がるように人生が駄目になってしまった」という話は残念ながらよく聞きます。しかし楓は逆に“より壮大な夢”を語るところを見ると、FFS理論(開発者:小林惠智博士、詳しくはこちら)で言うところの、「拡散性」が高い人物だろうと推察できます。

 また、挫折してグダグダと悩むよりも、最短で気持ちを切り替え、白黒はっきりさせて前に進もうとするとするところから、「弁別性」の高さも感じられます(これはあくまで、ドラマの中の楓という登場人物を観察して診断した結果です)。

 楓が「拡散性・弁別性」の高い人物だとすると、このタイプの特徴は、「合理的に白黒はっきりと分けようとするところがあり、また自分の興味ですぐに動こうとし、立ちはだかる壁を壁とも思わない」という個性の持ち主です。

岩崎楓の性格は「拡散性」「弁別性」――さらに詳しく

●「弁別性」の高い人(参考:「褒めてくれない“冷たい上司”とストレスなく付き合うには」)

●「拡散性」の高い人(参考:「『興味ないんで』と言い放つ部下をどうしよう」)

FFS理論による個性と強み、弱みの分析について詳しくお知りになりたい方は『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』をご覧ください。

スポーツばかりしてきた子が、勉強もできることが多いのは?

 高校時代にスポーツやダンス、音楽などで日本のトップクラスになる人は、たいてい子どものころ(未就学児)からそれらの訓練を始めています。ですから、同じ世代の子どもと比較すると、勉強に費やす時間は限られているはずです。

 にもかかわらず、何か一芸に秀でた子どもは、「勉強ができる子」が多いのです。

 事実、「スポーツ選手には大卒が多い」というデータもあります(出典:『スポーツの世界は学歴社会』(PHP新書)橋本俊詔、齋藤隆志著)。
 スポーツと勉強の二刀流。それを可能にする要因は何なのでしょうか?

 スポーツができる子どもの特徴として、「運動神経が良い」「反射神経が良い」「機転が利く」などが挙げられます。「センスがいい」とも言えます。

 一方で、「いや、そうではない。私はドンくさいから、人よりも多く練習をした」という人もいるでしょう。それはそれで“身体が自然に反応するくらいに覚えている”状態にまで練習を繰り返したのです。つまり、コツコツと積み上げて、できるようになった、ということです。

 今の話をFFS理論で説明すると、前者の「反射神経が良い」「機転が利く」のは、「拡散性」の特性です。「拡散性」の高い人は、いろいろな体験をする中で、コツをつかんでいきます。はたからは、脈絡なく手あたり次第に見えるかもしれませんが、本人はいろいろ試しながら、閃き(=さまざまな成功・失敗体験から導かれる共通の原理原則)が生まれるのを待っているのです。

 これを「学び」に置き換えると、すなわち、「概念化」による学び、ということになります。

 それに対して、後者の「身体が自然に反応するまで覚えさせる」のは、「保全性」の特性です。「保全性」の高い人は、あれこれ体験するよりも、一つのことを完璧になるまで仕上げ、それを一つずつ積み上げていくことで習得していきます。すなわち、「体系化」による学びです。

(拡散性、保全性の特徴や、概念化の学び、体系化の学びについては、書籍で詳しく説明しています)

 つまり、子どものころから一つのことに集中的に取り組んできた「極めた人」は、前者のタイプであれ、後者のタイプであれ、自分の個性に合った学び方を会得していると言えます。言い換えれば、スポーツを通して学びに必要な「型(かた)」を持っている、ということです。

 獲得した「学び型」は、当然のことながら、勉強にも応用できます。
 それが、「スポーツのできる子は勉強もできる」ことの要因の一つでしょう。

才能だけでも、努力だけでも、成功しない

 若くして極めた人を、「天才」と言ったり、「努力家」と言ったりしますが、基本的には、生まれながらに持つ才能に、それを鍛える努力が重なって初めて、極めた人材になることができます。つまり、才能と努力の両方が必要だということです。

 FFS理論で考えると、生まれながらに持つ才能の一つが、「個性」です。
 個性には優劣はない、というのもFFS理論の重要な主張です。
 しかし、「自分の個性に合った努力の方法」はあるのです。
 成果に結びつく努力とは、個性に合った方法で学ぶことに他ならないと私は思っています。

 具体的に言えば、「拡散性」が高い個性の人にとっては「概念化の学び」であり、「保全性」が高い個性の人にとっては「体系化の学び」です。

 原作のマンガ『ドラゴン桜2』では、生徒を東大に合格させるためには「頑張らせることが大事」だと主張する水野直美に対して、桜木が「闇雲に頑張らせるだけではダメだ。正しい頑張り方を教えることが、導く者としての使命」と諭す場面があります。

 スポーツのできる子は、桜木が言う「正しい頑張り方」をすでに身につけている、と言えるかもしれませんね。

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『ドラゴン桜2』2巻8限目より ©Norifusa Mita / Cork
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 ドラマの中の楓に話を戻します。

 楓は「拡散性」が高いことから、バドミントンでの体験を通して「概念化」の学び型を身につけていたと考えられます。しかも、「弁別性」の高さから、合理的に考える能力も高い。

 だとすれば、これまでバドミントンに費やしていた時間と頭を、東大受験に振り替えれば、「オリンピックに出るよりも東大合格は楽だ」という桜木の言葉にも「その通りだ」と、すぐ納得できたことでしょう。

 もちろん、常識で考えてもそれは分かることです。

 しかし、これまでの学生生活のすべてを注ぎ込んできたであろうバドミントンを、いずれ戻るつもりにしてもいったんは捨てて、畑違いの受験競争に挑む覚悟を決める、ということは、たとえ合理性があっても、誰にでもぱっとできることではありません。特に「保全性」が高い人には、積み上げてきたことを捨てるのは大変な苦痛になります(前回参照)。

 ちなみに、楓役を演じた平手友梨奈さんは、この役作りのために、オリンピック出場経験のあるバドミントン選手、栗原文音さんから特訓を受けたそうですね。バドミントンの強豪選手を見事に演じていました。

 それができるのは、平手さんの優れた運動神経ゆえであることは、おそらく間違いないでしょう。

 ただ、それだけではない、と私は思います。これまでの芸能活動や多彩な経験を通じて、平手さんは自分に合った努力の仕方、つまり「学びの型」を身につけてきた。だから、初めて取り組むことも、最短で効率よく習得することができるのではないか。彼女の演技から、そんなことを感じました。

練習と「考える力」で概念化に到達

 スポーツと勉強に関する考察をもう少し進めます。

 文武両道を貫いて指導している高校野球の監督が、新聞のインタビューで次のように答えていました。「限られた時間で成果を出すには『考える力が必要』なので、練習中から、常に『なぜこの練習をするのか』を考えさせている」と。

 『あなたが伸びる学び型』でも書いていますが、競馬の騎手はトップクラスになればなるほど、「すべてのレースを覚えている」そうです。1日に複数レースに出る騎手もいますので、年間にすれば膨大な数です。それらを単純に全部覚えるのは至難の業です。

 では、どうしているのか。彼らがレース後に必ずやっているのは、レース前に描いたレース展開と実際のレースを仮説・検証することだそうです。この内省を繰り返していくと、「断片情報から全体を構成できる力」が身についていきます。それこそが「トップクラスになるための資質」だと思います。

 スポーツに秀でるには、「考える力」も大事だということです。「うのみにせず、疑問に思う」こと。何のための練習かを考えながらやることが、体験を通して早く上達する(そして概念化に到達する)には大切なことです。

 そして当然ながら、走る、飛ぶ、打つ、投げるなどの基礎技術の向上もスポーツの上達には欠かせません。スポーツのできる子は、地道な反復練習にも面倒がらずに取り組むことができます。

 基礎能力が重要なのは、勉強や学び、さらには仕事においても同じです。基礎能力を高めるためには、「単純でつまらない」と思える反復練習にいかに地道に取り組めるかがカギですが、これが苦手な子どももいます。特に「拡散性」の高い子どもはそうです。

 書籍では、飽きっぽい「拡散性」の高い子どものやる気を高める秘訣も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

好きなことがある人のメンタルの強さ

 最後に、ドラマの中の楓について印象に残ったことがもう一つあります。
 それは、「少々のことでは動じない強さ」です。

 先週の第1話の放送では、楓は強いまなざしで桜木を見ていました。コンビニでの万引きを桜木に見られたかも、と疑う場面もありましたが、それ以上に、高校に来て早々「事件」を起こしている桜木に対して、腹の据わった感じで対峙している姿が印象的でした。

 スポーツを究めた人は、少々のことでは〝動じない〟メンタルも鍛えられるようです。

 つい先日も、中学生時代から日本のジュニア選抜に選ばれている選手と話す機会がありました。強化合宿に集められるのは、「同世代の日本を代表する若者たち」ばかりで、その中で勝ち残る必要があります。監督やスタッフも超一流が集まる中で、集中的な練習をするわけですから、当然のように視点が高くなります。一般人が体験できない「高質な原体験」(=修羅場)を十代半ばで味わっているのです。マイナスなことがあっても「プラスに転じる」メンタルの強さを、その選手から感じました。

 そう考えると、スポーツのトップ選手から「腹が据わっている」とか「集中力がありそう」「男前な感じ」を受けるのも当然、と言えそうです。

 メンタルの強さは、勉強や東大受験の場面でも必ず活きてくるはずです。バドミントンを頑張ってきた楓が、今後、それによって培った「学び型」やメンタルの強さをどう発揮していくのか、注目していきたいですね。

 まとめると、体育会系出身者が「勉強でも優秀な理由」は、スポーツを通して「学び型」を会得しているから、と言い換えることができそうです。学び型は、つまりは「自分が一番努力を続けやすいやり方」ですから、スポーツ以外でも、勉強でも応用できるものです。

 原作のマンガでも、桜木はこんなことを言っています。
 「勉強以外にスポーツや音楽など自分が好きなことに熱中している人たちには、東大合格の素質がある」(『ドラゴン桜』11巻96限目)

 今回は楓に注目したのでスポーツの話になりましたが、スポーツでなければならない、という話ではありません。熱中できるものがあって、それにトコトンのめり込める人は、「うまくなりたい」一心で必死に練習したり、挑戦したりします。その経験を通して、学び型が自然に身につくことがあります。

 子どもが興味から目を輝かせるものがあるなら、それをどんどんやらせてみると、その子にとっての合理的な「勉強法」につながるかもしれません。

© Norifusa Mita / Cork
(構成:前田 はるみ

『ドラゴン桜2』2巻8限目より ©Norifusa Mita / Cork
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 人にはそれぞれ、自分の性格に合った「学び型」がある。

 4月25日、TBS系日曜劇場でドラマ放映が始まった「ドラゴン桜」。その原作となった人気コミック『ドラゴン桜』『ドラゴン桜2』(三田紀房作)と、大手企業が採用する「FFS理論」で、自分の性格に合わせた、努力が続く「学び型」を分かりやすく説明します。

 最初に自分の性格をFFS理論で診断。「拡散性」が高いか、「保全性」が高いかによって、採るべき学びの型とその理由、さらには、目指すべき目的の設定方法、飽きずに努力を続けるためのやり方まで、懇切丁寧に解説します。

 『ドラゴン桜』『ドラゴン桜2』の名場面から、それぞれの学びの型が具体的に分かるシーンを読むことで、ロジックをビジュアルで学ぶことができ、理解しやすさも抜群です。

 「自分自身の学び」はもちろん、お子さん、あるいは部下の指導に活用できるように、学びを中心にしつつも勉強だけではなく、仕事についても事例を挙げて具体的に紹介しています。

 本書には「FFS理論」に基づいて、ウェブ上で自己診断が行えるID(1人分)が付いています。自分のタイプを正しく知ることで、学びの効率が上がります。


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