<金口木舌>坂道の向こうに


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 「乃木坂」に「欅(けやき)坂」。アイドルグループに冠した坂道を想像してみる。東京都の赤坂に乃木坂は実在し、六本木には六本木けやき坂通りがある。都会の空気に包まれた坂道は、確かにアイドルのいる舞台にお似合いだ

▼歌の題名にも坂道が登場する。例えば福山雅治さんの「桜坂」。早世したロック歌手の忌野清志郎さんに「多摩蘭坂」がある。実際の名称は「たまらん坂」。東京都国立市にある。清志郎ファンの聖地だと聞く
▼しまくとぅばでは「ひら」。沖縄には不思議な坂道の名がある。那覇市垣花の「がじゃんびら」に漢字を当てれば「蚊坂」となる。東恩納寛惇著「南島風土記」は「我謝の坂」から転訛(てんか)したとの説を記す
▼名護市源河の「恥うすいびら」には、恋仲になった男女が命を絶った地という言い伝えがある。しまうた研究家の仲宗根幸市さんの歌詞に普久原恒勇さんが曲を付けた民謡も生まれた。悲恋を刻んだ坂道である
▼坂道の魅力は、上るごとに風景が変わってゆくことにある。坂道の向こうにある風景にも期待は膨らむ。上るのはつらいけれど、まだ見ぬ風景が待っている。坂道が人生に例えられるゆえんである
▼受験を目の前にした若者たちは試練の坂道を歩んでいる心境だろう。息切れせぬよう、一歩ずつしっかりと踏みしめてほしい。上りきった地には新しい風景が広がっているはずだ。